失敗の本質
- 作者: 戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,杉之尾孝生,村井友秀,野中郁次郎
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1991/08
- メディア: 文庫
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日本がなぜ大東亜戦争に突入したのかを問うもでのはなく、開戦したあとの「戦い方」「敗け方」を研究対象としています。実際の戦闘の事例研究から、戦略・組織における失敗の分析、そして本質的分析に及んでいきます。
本書は、20年近く前に書かれたものなのに、バブル崩壊後の日本の停滞を予見するような結論。戦後、安価に、高品質、高付加価値製品を作ることで、経済大国になった日本が、その後どのメーカーも、世界のトップになった時点で、イノベーションのジレンマとも言える状態に陥っています。それは日本軍が、日露戦争以降、成功体験に浸り、自己改善できなかった。第1次大戦を経験しなかったがために、その後の、新しい戦争の形を想像できなかったからとも言えそうです。そのことは、今の日本企業が苦戦していることの理由とも、皮肉にも通じる部分があるかもしれません。
もちろん、まだまだ戦後日本が得意としてきた、モノ作りメーカーは、今後も日本を代表する大企業であることは間違いないのですが。この先の、日本経済を牽引する象徴であり続けるかどうかは分かりません。感情的には頑張って欲しいとは思いますが。
過去から学ぶといっても、なかなか難しいということだと思います。理屈で分かっても、行動にすぐに移すことは容易ではないはずです。
怖いと思ったのは、組織が硬直化すると、内部にいる人達も知らず知らずのうちに、盲目になってしまうことです。気がつけば、そこの伝統・慣習みたいなルールなどに縛られてしまい、新しい事がやりづらい風土が出来上がったりすることです。これは組織が大きくなるとある程度しかたがないのかもしれません。そうこうしているうちに、すぐにではなくても、徐々に、時代の流れについていけなくなった企業は、市場から置いていかれ、淘汰されるのが、市場経済の本来の姿だと思います。それはそれでいいと思っているのですが、
しかし、今の日本では、影響力の大きい一部の企業に国が補助金を出したりします。こういうことは、長い目で見た場合に正しいことなのでしょうか。勿論、全てが悪いとは言わないですが、単に利権が絡んでいるだけの補助金なんて、たくさんありそうです。というかそう見えてしまう。。
こういった、制度などの、構造的な問題も含んで、市場の原理に反して、循環しない社会ではないならば、現在のリーダー階層が入れ替わって、過去と決別できない限りは、創造的破壊による突出した企業が出てくるのは、難しいような気がします。むしろ、これは日本だけが抱えている問題ではなく、アメリカ以外は、グローバル経済の市場に展開して次々に勝利するという意味では、ヨーロッパにも、アジアにもまだ、企業は少なく、特にITでのプラットフォーム戦略で考えれば、アメリカの一人勝ち状態ではないでしょうか。ゲーム業界では、任天堂とソニーが頑張っていると思いますが。
昔から、こういう構造的、社会の文化的背景で、国力に差が出るのかもしれないですが、本書を読んでいると、アメリカにはますます追いつけない気がしてきます。あれだけ雇用が不安定ですぐ会社からクビにさせられるような国と、日本のように、これだけ解雇するのが難しい社会でも日本の方が自殺率は高いそうです。なんだか色々考えてしまいます。